たまにしか乗らないCBRのエンジンがかからなくなってしまいました。
おそらく1990年式なので、この記事の執筆時点ですでに30年以上!が経過しているということで、だんだんと旧車の部類に入ってきています。
そりゃ、色んなところにガタが出てもおかしくはない。ということで、各所を点検しながらエンジンがかからない原因を究明したいと思います。
ちなみに、一応最終的にはエンジンを再始動させることができまして。
同じ世代のバイクなら原因究明の考え方は大体一緒だと思いますので、誰かの何かの参考になれば幸いです。よろしければ読んでやってくださいませ。
故障状況としては、
◯セルはキュルキュルと問題なく回る。
◯しかしセルが回るだけで、ブルンともボゴッとも爆発の気配はない。
◯前回エンジンがかかったのを確認したのは2ヶ月ぐらい前
状況からは色んな可能性がありすぎて、原因が分からないので順番に検証して消去法で原因を特定していきます。
容疑者①バッテリー
まずセルが回る時点でバッテリー上がりでない事は間違いないと思うのですが、念のため充電してみます。電圧が下がっていて勢いが足りない可能性も無きにしも非ず。
でも満充電にしても症状に変化はありませんでした。
体感的にもセルは元気よく回っていて、バッテリーが原因では無さそうです。
容疑者②燃料コック
キャブレターに燃料が供給されていないのでは無いか。と考えました。
MC22の燃料コックは負圧式で、エンジンがかかっている時だけ燃料が流れる仕組みです。
正確にはエンジンがかかって、インマニの負圧によりホースで繋がったコックのダイヤフラムが作用して燃料が流れる仕組みです。
なので、負圧で燃料が流れるかを確認します。
↑の画像で手前の細い管が負圧ホースがつながっている管。
奥の管が燃料が流れる管です。
コックをONの状態にして、手前の管に適当なホースをつなぎ、
その先端を口で咥えて吸込みます。
吸い込むことで負圧がかかりますので、その間だけ燃料が流れれば正常に作用しているという事です。
ガソリンがこぼれないように奥の管の先ににカップで受けながら、ホースを吸うと・・
問題なくガソリンが流れてきました。
燃料コックは正常なようです。
しかし、まだ燃料が供給されていない疑惑は残っています。
それは、エンジンからつながる負圧ホースが抜けていたり、穴が開いていたりしていて負圧がかかっていない場合です。
↓の画像で太い方のホースが燃料が流れるホース。細いホースが負圧ホースです。
目視ではどちらも問題ない様に見えます。
手っ取り早く、燃料ホースに直接ガソリンを流しいれて、エンジンがかかるかを試してみます。
燃料ホースに漏斗をセットし、そこにガソリンをトクトクトクと注ぎます。
これでエンジンがかかれば『燃料が供給されていない問題』という事になりますが・・
エンジンはかかりませんでした。
これで燃料の供給が問題ではないという事になりますので、次にいきます。
ガソリンエンジンと言えば、「良い混合気」「良い圧縮」「良い火花」。
簡単な部分から検証していくのが基本だと思いますので、まずは「良い火花」から確認していきます。
車両に跨った状態でエンジンを見た時に一番右側の4番プラグを外して火花が飛んでいるかを確認します。
※この作業の時はこの時点で、ダンク・エアクリ・サイドのカウルは外されています。
・プラグコードを抜く →
・プラグを外す →
・抜いたプラグコードにプラグを挿す →
・プラグをエンジンに押し当ててスイッチオン
の一般的な方法で火花が出るかを確認します。
↓画像が暗くて粗くて分かりにくいですが、一応火花は出ています。
火花は出ているのですが、変なところに火花がちょっとだけ飛んでいます。
これだけでは原因は特定できませんが、正常な状態ではないことは分かります。
「良い混合気」「良い圧縮」「良い火花」のうちの「良い火花」に問題がありそうという方向でどんどん確認していきます。
容疑者③パルスジェネレータ
いわゆるピックアップコイルです。クランクシャフトの回転に伴い、シャフトの角度を検知して火花を出せ信号を出すやつ。タンクの下にカプラーがあるのでそれを外してコイルの抵抗値を測定します。
これが断線したりして故障していると「今だ!火花を出せ!」という信号が出ないので、火花が出ません。
なので、今回は一応弱々しいながらも火花は出ているので、これが壊れている可能性は低そうですが、念のため確認しておきます。
サービスマニュアルによると正常値は340~420Ωとの事。
測定値は430Ωなので正常値に比べると若干高いですが、エンジンがかからなくなるような影響がでる誤差とは思えませんので、部品としては正常と判断します。
ちょっと余談ですが、
バイクの(バイクに限らずですが)故障修理をするときの電気系のトラブルって難しい点がありまして、それは「切れかかっている」という状態が存在する事です。
完全に断線してしまっていれば分かりやすい事でも、わずかな振動でくっついたり断線したりするような状況だと、計測したときは正常だったのに、いざ作動させようとすると通電してない!みたいなことが発生し、どんどん訳が分からなくなっていってしまいます。
車の白熱球のスモールライトが切れた時に、叩くと再び点灯したりするあの感じ。
一度測定して問題なかったところも、そういうムラがあるかもって思いながら作業するのが大事だと思っています。
故障修理に話を戻しまして、
次は3番のプラグを外して火花が飛ぶかを確認します。
さきほど4番プラグの火花がおかしかったので、おかしいのが4番だけなのか、
4本ともおかしいのかを確認します。
特定のプラグだけ火花が飛ばないという事なら、個別に作用する部品、
つまりイグニッションコイルおよびそこに繋がる配線、もしくはプラグコード、プラグがおかしいという事になりますし、
4本とも同じように火花が飛ばないという事なら上記に加えて、先ほど確認したパルスジェネレータやスパークユニットなど、4本ともに作用する部品も故障している可能性があるという事になります。
3番のプラグを外して確認してみると、
(大丈夫なんでしょうけどなんとなく感電防止で木片を使って押し当てています。)
火花が出ません!
こちらは小さい火花も出ず。全くの無反応でした。
場所によって火花の出方に差があるという事で、イグニッションコイル・プラグコード・プラグに的を絞って確認していきます。
まず一番簡単なのは、新品の部品を用意して、入れ替えてみればはっきりするのですが、プラグはともかくイグニッションコイルとプラグコードは高価です。
イグニッションコイルは現時点でまだ新品が手に入るようですが、壊れていないものに何千円も・・しかも2つあります。(検証だけなら1個でも良いですけど)
プラグコードは純正部品は廃番のようで、
社外なら車種専用品が手に入りそうですが、こちらも2万円近くします。
お金がかかるのは仕方が無いのですが、必要性のない無駄な出費は回避したいところ。
なのでまずは故障しているのかどうかを部品ごとに検証します。
容疑者④ イグニッションコイル
一応車上でもできなくはないと思うのですが、作業しにくいし撮影もしにくいので、コイル、コード、プラグを一旦取り外します。
↓燃料タンクを外して、エアクリを外した所に、イグニッションコイルがあります。
コイルは「1番・4番用」と「2番・3番用」で計2つ並んで設置されています。
それぞれに配線がつながっていますので、引っこ抜きます。
ステーを介して3本のボルトで固定されていますので、それぞれ緩めてボルトを抜けば取り外すことができます。
2つのコイルは同じ部品ですので部品が入れ替わっても大丈夫。
ただ、配線はそれぞれに「1番4番今だ!」という信号と「2番3番今だ!!」という信号が来ますので、組み合わせは間違えないように注意が必要です。
↓外したコイルとプラグコード。
番号がメモしてあります。
後から故障箇所が判明したときに、実際の症状と辻褄が合うか確認するためにどれがどこに使用されていたかはっきりさせられるようにメモしてあります。
※1番から4番の番号が逆にメモしてあります。正しくは車体に跨ってエンジンを見て、左が1番らしいのであしからず。
さっそくイグニッションコイルが正常かどうかを確認します。
まずは1次コイルの抵抗値を測定します。
車体からの配線が接続されていた端子間の抵抗値です。
サービスマニュアルに記載された正常値は2.0~3.5Ω。
実際の測定値は3.1Ω。
正常です。
もう一つのイグニッションコイルも1次側は同じく3.1Ωで正常でした。
次はプラグコード側の2次コイルの抵抗値の測定です。
プラグキャップが付いた状態でのマニュアル記載の標準値は23K~37kΩのハズですが。
測定できませんでした。断線している感じです。
いや、あとから画像を見て気づいたのですが、テスターのレンジを間違えてて測定できていないのかもしれません。
コイルが悪いのかコードが悪いのか。
コイルからコードを取り外してそれぞれ導通を確認してみることにします。
コードを押さえているプラスチックのキャップをプライヤーで掴んでクイっと緩めます。
キャップを外せば刺さっているだけなので引っ張ればコードを抜くことができます。
コードが抜けたらコイル単体で2次側の抵抗値を測定します。
ところが、奥まったところにある端子にうまくテスターを当てることができません。
穴の奥にある見えていない針に、テスターの針を2か所同時に当てるというなかなか難易度の高い芸当に、結構長い時間チャレンジしたのですが・・挫折しました。
後から調べたら、アルミホイルを丸めて突っ込むと簡単に接点を作れるらしいです。
(頭いい!)
私がバカみたいに穴に棒を突っ込んでコチョコチョやってた時間は何だったんでしょうね・・。
挫折した私はイグニッションコイルは放っておいて、先にプラグコードの確認に移ります。
抵抗値は置いておいて、そもそも導通しているかの確認です。
プラグコードって、聞いた話では多少切れててもプラグに火花が飛ぶことがあるそうです。
そんなバカなって話なのですが、そもそもプラグが隙間のあいた空間に電気を飛ばして火花をだしているわけですから、同じ原理でちょっと切れたコードも飛び越えていくらしいです。
ただ、それは昇圧された高い電圧の為せる技なのでしょうから、ちょっとでも断線していれば導通は確認できないはず。
予想通り、導通が確認できません。
ただ、プラグキャップの中には抵抗が入っており、それがどのように作用しているのか自信を持って判断できませんので、抵抗を抜いて改めて確認します。
キャップにマイナスドライバーを突っ込んで緩めれば外すことができます。
セラミック抵抗とプラグに当たる金属製の部品が出てきました。
なんだか黒くなっていてあまり良好な状態では無さそうです。
抵抗を抜いてしまえばただのコードなので両端をテスターで触れれば導通ははっきりします。
結果・・4本中2本の導通が確認できず。断線しているようでした。
断線しているとなればエンジンのかからない原因はほぼコレで間違いない。
逆にいろいろ調べた結果、どれも正常となると迷宮入りしてしまうので、
むしろ断線していてくれたことが嬉しくさえあります。
断線しているプラグコードはゴミなわけですが、どうせ捨てるならその前にもう一回役に立ってもらいます。
それは先ほど上手く接点に触れなかったイグニッションコイルの二次側の計測です。
捨てるプラグコードを適当な長さで切断。
切断して切り出した部分は導通していることを確認。
その短いコードを(アルミホイルの代わりに)コイルにぶっ挿して、抵抗を計測します。
プラグキャップ無しの二次側の抵抗値は、サービスマニュアルに記載の標準値が13~17kΩ。
計測値は約14kΩ。
よしよし。正常なようです。
ちなみにもう一つも計測しましたが同じような値でした。
これでイグニッションコイルは正常という事が確認できましたので、
やはり原因はプラグコードで間違いないでしょう。
容疑者⑤ プラグコード
という事で、プラグコードに逮捕状が出ましたので、プラグコードを新調しました。
純正部品はどうやら廃番のようでしたので、
永井電子のウルトラ シリコーンパワープラグコードを購入しました。(名前長いな!永井だけに!)
ちゃんと車種専用設定で品番はID10886です。
車種専用設定と言うだけあって、4本とも長さが違います。
もともと付いてたコードを参考に長さをチョイスしてねっと説明書に記載がありますが、つまりコイルからプラグが遠い順に長いものから使用していけば良いのでしょう。
個人的に気が利いているなぁと思ったのはプラグとコードの接触部分の形状を変えるターミナルが付属している事。
下の画像で右側がもともとのネジ型で左側がコードに付属してきた部品を取り付けたところ。
ネジ型だとプラグコードを差し込んだ時の手ごたえが分かりにくくて、ちゃんと挿さっているのか不安になるのですが、変更後の形状だとパチッと分かりやすい手ごたえがあるので、作業していて安心です。
さすが2万もするだけあるぜ!と感心しながらさっそく交換していきます。
MC22は狭くて作業しにくい上に、エンジン上部のクリアランスとプラグホールの深さが絶妙で、ちょうど良い長さの工具を使用しないと、プラグレンチが入らないとか、届かないとか、緩められたけど取り出せないとか、苦戦することになるので、吟味した工具を使用します。
私的ベスト工具は下の画像の組み合わせ。
ユニバーサルジョイントとマグネットの入ったプラグレンチを組み合わせると、回しやすいし長さもちょうど良くってオススメです。
それでも狭い中での作業になるのでやりにくくはありますが、今回はタンクもエアクリも外れていますので、それなりにスムーズに交換できました。
私はやったことは無いですが、プラグ交換だけならタンク等を外さなくても、ラジエーターをずらして車体前方から交換できるそうなのですが、結構大変だと思います。
プラグ交換するならタンク等を外した時に合わせてやるのがよろしいと思います。
プラグを4本とも交換して、新品のプラグコードを挿しました。
説明書には、「コードは長めなので良き所で切るべし!」とあるのですが、一回そのまま接続して様子を見ます。
万が一間違って短く切ってしまって届かなくなったりしたら最悪です。
取り返しのつかない事にならないよう慎重に事を進めます。
ビビりなのでコードがちょっとあまるぐらいで、切らなくても良さそうなら切らずに行こうと思います。
イグニッションコイルとプラグコードを固定する部品は再利用します。
プラスチックのキャップとワッシャとパッキン(?)。
古いコードから抜き取って新しいコードに通して使用します。
コードの中心の金属線にコイルの奥にある接点がちゃんと触れるように、中心を意識しながらぶっ挿します。
奥までしっかり差し込んだら、キャップを締めて抜けないようにしっかり固定します。
あとはイグニッションコイルを元の位置にステーとボルト3本で戻します。
コイルに車体からの配線を接続したら、燃料を投入してスイッチオン。
無事にエンジンが始動して修理完了です。
実をいうと、コイルを戻した時に1・4番のコイルと2・3番のコイルを逆に取り付けていて、エンジンがかからなくて焦りました。
エンジンがかからないので、プラグを外して火花をチェックするも、火花は出ている!
火花がちゃんと出るようになったのにエンジンがかからないなんて・・
プラグコード以外にも問題があるのか?
まさかキャブをまたオーバーホールしないといけないのか?
とテンパリ始めた時に、あっ!逆やんか!と気づきました。
取り付け位置が逆という事は、車体からの配線が逆に接続されているという事で。
つまりピストンが一番下がった下死点で一生懸命火花を飛ばしているという事で。
そりゃエンジンかかるわけないって状態でした。
気付いて入れ替えたらすんなり始動してくれて、一安心。
エアクリとタンクを戻して走行可能な状態に復帰。
結局、今回の故障の原因はプラグコードという事だったようです。
私がこのバイクを中古で購入した時から付いていたコード。
社外品のようなので新車当時の物では無いのは確実ですが、それでも使用年数は不明で、もしかするとかなり長い事使用されていた部品なのかもしれません。
外れた状態で触ってみても、柔軟性は無いに等しくカチカチで、内部で断線していたとしてもおかしくない雰囲気は出ています。
いずれにしてもプラグコードは消耗品で、定期的な交換が必要という事ですな。
今回唐突に始動不能な状態になりましたので、とりあえず、これが出先じゃなかったのが幸いでした。
当たり前ですがだんだんと古くなっていくバイク。
色んな所が壊れていきますが、修理するのも楽しいものだと思って、これからも大切に乗っていきたいと思います。
最後に、この作業の様子を動画にまとめましたので、よろしければこちらもご覧くださいませ。